P科道中膝栗毛

とある場末の精神科医局員が医療について思うこと、投資、転職の話などを極論で語ります

産休女医にキレる女医という構造的問題

産休女医が嫌われる理由を考えてみます。
 

1 産休女医にキレる女医

 
A「はぁ?B子、また休みなの。」
 
A子の刺々しい声が外来に広がる。
妊娠中期にさしかかり、産婦人科クリニックへの通院で休みがちになるB子だが、
それを祝福する声ばかりではなかった。
 
B「だってしょうがないじゃない、病院行かなきゃいけないんだもの。」
 
A「だったら夕方戻ってくればいいでしょ。あれもこれも私に全部やれっていうの?一人の給料で二人分働けと??」
 
こうして今日も、女医同士ほかスタッフ間の軋轢が深まるのだった。
 
 

2.妊娠とそれにまつわる休暇が嫌われる理由

 
上記の理由について、もう少し具体的に考えてみます。
  

2.1 急な欠勤に対応できない

 
医者という仕事の性質上、急に欠勤になると周囲のスタッフが困ります。
 
医者以外のスタッフは医者の指示で動いており、
それがないと1日の仕事の流れを決められません。
 
また、他の医者が代わりに指示を出すにしても、
初見の患者に指示を出すのは限界があり、
急場の対応しか出来ません。
 
欠勤した医者の仕事を代行しようとしても、
その人の仕事内容を全て把握していないため、
限度があるのです。
 
予定された休みであれば事前の情報共有が出来るのですが、
突然の場合それもありません。
 
それが数日続いた日には、患者もスタッフも、
 
「早く長期的な事を決めてほしいんだけど、
担当医が居なくて全然話が進まない」
 
という不満を抱くでしょう。
 
 
当直の場合はより顕著です。
 
その時間帯にはその人しか居ない予定でシフトが組まれているため、
それ以外の人は私用なり別の仕事を入れてしまっている事があります。
 
急に来れなくなったからといって、
代わりを探すのは簡単ではありません。
 
 

2.2 一人当たりの業務量増

 
 
公務員などは、部署ごとに定数(人数)が決まっており、
それに基づいて業務分担がされています。
 
そこで何らかの理由で休業する人員が出たとしても、
定数が増えない場合、
一人当たり業務量は増えることになります。
 
定数に入らない嘱託員等を募集して補充しようにも、
真っ当な医者は通常どこかしらで既に働いてしまっているので、
応募してくる人材がそもそも少ないのです。
 
年度途中である事や、待遇面の問題もあります。
 
 
こうして開いた穴は埋まらないまま
年度末まで過ぎていきます。
 
 
 「あいつが抜けたせいで自分の仕事は増えるのに、
次の人は来ない。ふざけるな」
 
となるのです。
 

2.3 医局という特殊な雇用事情

 
一般企業の場合、産休に入ったとしても、復帰すればそこで再度戦力になります。
 
産休取得率などをアピールして人材を集めている会社もあるのは、そういった点を考慮してのことです。
 
 
一方で、医局からの派遣の場合はどうか。
 
通常医局から派遣で来ている医者は、何年など期間が決まっています。
 
その期間が過ぎると「次の人員に交代」となります。
 
 
ここで産休が挟まると、
 
「あの人は来たのに半分は産休で居なかった」
 
「あの医局は産休女医ばかり送ってくる」
 
となる。
 
 
受け入れる病院側も、産休を取らせたとしても
産休から戻る頃にはすぐ居なくなってしまう。
 
一般企業のように、
 
「また引き続き頑張ってもらう」
 
という選択肢がないのです。
 
そうすると、
 
「うちは産休が取りやすい」
 
などとアピールするメリットはないことになります。
 
 
むしろアピールすることで、医局から
 
「あそこの病院は産休取りそうな人を出しても文句言わないから、
どんどん出しちゃえ」
 
となり、産休を取る人がそこに集中して
 
事態が悪化します。
 
 
自分の病院を守るためには、医局からの派遣に対して
 
「産休なんて取るな」
 
と暗に言わざるおえなくなる。
 
 
じゃあどこにも派遣されていない期間に産休を取ればいいかというと、
産休を取る側はそうも言っていられない。
 
社会制度上、どこかに就労した状態で産休を取るのに比べ、
産休中に無職になるのは色々な不利を被るため、
産休を取る側も必死です。
 
通常の会社組織であれば、
 
「会社には所属しているが雇用契約はない」
 
という状態にはなりえないのに対し、
 
 
医局の場合、
 
「医局には所属しているが、雇用契約はない」
 
という状態にもなり得るのです。
 
 
短期間で雇用形態が移り変わっていく、
 
医局派遣という制度の弊害
 
といえます。
 
 

2.4 やりたくない仕事を断る口実にされる

 
当直などの仕事は、よほど手当が手厚くない限り、
あまり積極的にやりたがる人は居ません。
 
 
口には出さないものの、誰もやりたくない仕事なのです。
 
 
当直はやらないけれど、
日中の欲しい症例はみたい、
興味のある勉強会等には参加したい等
 
やりたい仕事だけ選んでいると、
周囲の反感を買うのは確実でしょう。
 
当直も日中の仕事も、全部均等に減らして、
日勤何日、当直何回とするのも手ではあります。
 
しかし日勤の日数を減らして常勤でなくなると、
病院の健康保険に入れなかったり、
専門医等の研修期間に含まれなくなる等の
不利益があります。
 
そういった理由もあり、
上記のような働き方をしている人はあまり見かけません。
 
 
このような、労働内容と報酬のねじれを解消するには、
当直の手当を上げて日勤の手当を下げる等して、
 
誰もやりたくない仕事への報酬を増やす
 
しかないかと思います。
 
 
 

3.まとめ

 
女医の産休が嫌われる理由は、
 
・急な欠勤に対応できない
・産休をとった人の分の業務量が増える
・医局派遣という制度上の問題
・やりたくない仕事だけ押し付けられる
 
などが原因としてあげられます。